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【書評】未来という幻影「タタール人の砂漠」ブッツァーティ

スティーブ・ジョブズの言葉に「もし今日が人生最期の日だとしたら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか」というのがあるが、「タタール人の砂漠」は自分の人生を生きなかったケースを描いた話。

本作品についての解説にも複数目を通したが、人の人生そのものについて描いた作品との解釈が多かった。小説なので、人によって解釈は異なるだろうが、個人的に感じたのは「今を生きないことの愚かさ」である。

主人公の将校は、若き頃に辺境の砦に配属され、そこから出ていくチャンスがあったにも関わらず、確からしさのない脅威「タタール人の襲来」によって戦功をあげることに淡い期待をもちながら、何十年もの月日を砦での勤務に費やす。そして最期、本当に外敵が襲来するが、その時には老いと病で動くこともままならず、人知れず息を引き取るという、これ以上ない残酷な話だ、

しかし、この話に自分を重ねるサラリーマンも多いのではないか。未来の輝かしい昇進に期待をかけて、今のつまらない仕事を我慢している大企業のサラリーマンも多いだろう。その昇進や未来の大仕事はどれくらいに現実的なものなのか?単なる身勝手な幻想ではないのか?そしてその幻想が幻想だと暴かれたときの落胆は残酷なものである。

僕個人は、転職を重ねた反省も込めて、仕事においてはある程度の期間の我慢が必要な局面はあると考えている。ある程度の時間の奥行きがなければ、取り組んでいる仕事の面白さも分からないこともあるだろうし、ちょっと仕事をかじっただけで投げ出していては何の蓄積ももたらさないだろう。でもそれも3年程度の時間軸であって、4年も5年も未来への淡い期待だけを頼りに、意に沿わない仕事に関わり続けると、人生を棒に振る可能性がある。

そしてなにより必要なのは、目の前の仕事や日常に地に足をつけて向かいあえているかということだと思う。より良くなる未来だけを糧に生きる生き方は、その未来が幻影である可能が高いという意味において、自分にとって残酷な結末になる可能性が高い。

今の日常や仕事で携わっている人達に誠実にかかわり、目の前のタスクを通じて自分の存在価値を示していくような毎日を積み重ねていかなければと改めて自省させられる作品だった。